| 早智子 | ||
|---|---|---|
| 少女 | 富貴子 | |
| 太志 | 澄香 | |
| 須藤 | ドクター | |
| 福島 |
| 巨大な窓のある巨大な壁が迫るようにそそり立っている。 壁伝いに恐る恐る、辺りを窺うようにセーラー服の少女がやってきて、窓近くの壁にへばりつく。そこから室内を覗こうとして躊躇、じっとその場に座り込む。 …と、窓の中にぼんやり、薄暗い明かりが灯る。 薄暗い窓からは巨大なシーツに覆われた巨大なベッドがのぞく。 ベッドには女と青年。27歳と19歳。二人とも裸である。 |
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| 女 | …ねぇ、服、とってくれない? |
|---|---|
| 青年 | 電気、つけていいかな? |
| 女 | つけないで。 |
| 青年 | 分かんないよ、何がどこにあるのか。 |
| 女 | 適当にとってくれればいいから。 |
| 青年 | つけるよ。 |
| 女 | 見られたくないのよ。 |
| 青年 | (クスクス笑う) |
| 女 | 何がおかしいの? |
| 青年 | いまさら顔見られるのが恥ずかしいの? |
| 女 | そんなんじゃない…、!(はっと後ろを振り返る) |
| 青年 | どうしたの? |
| 女 | (少し安堵)…テレビか。 |
| 青年 | テレビ? |
| 女 | …ああ、何でもないの。誰かに見られてたような気がしたから。 |
| 青年 | 誰かって誰に? |
| 女 | 気にしないで。私、よくあるのよ、そういうこと。 |
| 青年 | 電気つけるよ。(とシーツをひきずって立ち上がる) |
| 女 | あ! |
| 青年 | え? |
| 女 | 動かないで! |
| 青年 | 何だよ? |
| 女 | コンタクト、落とした。 |
| 青年 | マジかよ? |
| 女 | 動かないで、片方28,000円よ。 |
| 青年 | ………。 |
| 女 | あ、あったわ。 |
| 青年 | …よかった。 |
| 女 | 動かないで。私の下着があったの。 |
| 青年 | 電気つけろよ。 |
| 女 | たぶん、シーツの上だから。すぐ見つかるから。シーツ、ひっぱらないでじっとしててよ。 |
| 青年 | …なぁ。 |
| 女 | 何? |
| 青年 | こうして、じぃっとすっ裸で立ってるのって寒いんだけど。 |
| 女 | 暖房、効いてるでしょ? |
| 青年 | 心が寒いの。なんかバカみたいじゃないか、俺って。…あれ? |
| 女 | 見つけた…! |
| 青年 | ………。(窓の外を見ている) |
| 女 | もう大丈夫、見つけたわよ。ご協力、ありがとうございました。 |
青年、静かに忍び寄るように窓辺に立つ。 |
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| 女 | …どうしたの? |
|---|---|
| 青年 | 誰かに見られてたような気がして…。 |
| 女 | まさか。 |
| 青年 | 感じたんだ、視線。 |
| 女 | テレビじゃないの? |
| 青年 | 何だよ、テレビって? |
| 女 | だから今、私も誰かに見られてると思って振り返ったらテレビだったの。そういうこと、よくあるでしょう? |
| 青年 | ないよ。だいたいテレビなんかついてないだろ? |
| 女 | だからついてないテレビに視線を感じるのよ。 |
| 青年 | 普通、テレビに視線なんて感じないよ。 |
| 女 | そうなの? あたしはよく感じるけど。 |
| 青年 | それに視線感じたのは窓の外。中じゃない。 |
| 女 | 気のせいよ。 |
| 青年 | 気配だって感じたんだ、誰かがじぃっと…。 |
| 女 | それは、後ろめたいと思っている証拠。 |
| 青年 | そんなことないよ。 |
| 女 | バレるのが怖いんでしょ? |
| 青年 | だからそんなことじゃないって… |
電話が鳴る。 |
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| 女 | (出て)はい…。………。(受話器を置く) |
|---|---|
| 青年 | 誰? |
| 女 | …無言電話。 |
| 青年 | イタズラ? |
| 女 | みたい。 |
| 青年 | よくかかってくるの? |
| 女 | 初めてよ。 |
| 青年 | やっぱり窓の外、誰かいるんだよ。ほら。 |
| 女 | 電気、つけるわね。 |
| 青年 | つけるな。 |
| 女 | どうして? |
| 青年 | 見られるだろ、つけたら見てくださいって言ってるようなものじゃないか。 |
| 女 | 誰もいないわ。 |
| 青年 | ………。(じっと窓の外を見ている) |
女、背後から寄って青年の肩に頭を置く。 |
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| 女 | …誰も見てない。誰にも言わない。 |
|---|---|
| 青年 | 別にそんなこと言ってないよ。 |
| 女 | 誰にも言わないから…。 |
| 青年 | え? |
女、青年の首筋にくちづけする。 再び電話が鳴る。 女と青年、電話の方を振り返る。一抹の不安漂うその顔。 途端に、窓の中は闇。 闇に電話の呼び出し音がしばらく響いて、ぷつん、と切れる。 壁際の少女、バッグから携帯電話を取り出して電話をかける。 窓の中から微かに電話の呼び出し音が聞こえる気がする…。 少女、電話を耳にあてたままゆっくりと立ち上がって窓から中を覗くが、誰も見当たらないらしい。 電話を切ってバッグにしまうと、少女は窓をそっと開けて靴を脱ぎ窓枠を乗り越えて室内に入っていく。 部屋の中の少女、靴とバッグを素早く隠し、辺りを窺うようにじっと息を殺しながら、ベッドのシーツに潜り込む。 そして闇がすべてを、ごくり、と呑み込んでいく。 |
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